ケアカスケードの推定と対策評価に関する疫学研究
西浦 博
目的
ケアカスケードの推定と対策評価に関する疫学研究では、日本全国のHIV感染者およびAIDS患者発病に関する感染動態を推定値を地域別、できれば地方自治体別で実施し、ピアレビューされた原著論文の出版を通じてHIV診断者割合の推定値の提供を図る。また、男性および女性のHIV発生データを収集し、HIVの感染動態と、同性・両性間接触者・異性間接触者の男性における性的パートナー選択のアソータティビティを調査した。さらに、HIVの感染動態から推定したパラメータを梅毒の発生率に適用し、異性間接触者および同性・両性間接触者の男性、そして異性間接触者の女性における梅毒の感染伝播の可能性を解析した。
方法
地域別および出生年別の推定を実施することによって都市部と地域の別で異なる感染動態(例えば遠隔地で年長者の診断率が低い点など)を把握し、対策を重点的に講じるべき対象を把握するべく分析を実施した。また、国立感染症研究所が公式発表している梅毒患者の報告数を2001年度まで遡って収集し、早期梅毒(1期梅毒+2期梅毒)の報告数のみを抽出した。次に、梅毒およびHIVの感染者を性的指向および性別に基づいて4グループに分類し、各グループ間の次世代行列を求めることで、梅毒およびHIVの感染経路の内訳を推定した。また、各疾患の実効再生産数を経時的に推定した。
結果
2022年末時点の未診断のHIV感染者数は3209人(95%CI:2642、3710)と推定された。全HIV感染者のうち89.3%(95%Ci:87.8、91.0)が診断されていたものと推定された。梅毒患者全体の実効再生産数は2021年度は1.37で、性的指向によるグループ別にみると、ホモセクシュアル男性同士、バイセクシュアル男性から女性へ、女性からヘテロセクシュアル男性へ、ヘテロセクシュアル男性から女性への実効再生産数が1.0を超えていた。
考察・結論
九州沖縄地方と中国四国地方、北海道東北地方の診断比率は低く、それらの地域では新型コロナウイルス感染症のパンデミックに影響を受けやすかった。ヘテロセクシュアル男女のグループにHIV感染が持ち込まれた場合、今後も流行が維持される可能性があることが示された。